王宮メロ甘戯曲 国王陛下は独占欲の塊です
オアーブル宮殿の地下に、こんな冷たい石畳の牢があることをリリアンは初めて知った。
出来れば、一生知りたくなんかなかったけれど。
信じられないことが目の前で起こり、夢か現実かもわからないまま牢に投獄されてから二日が経った。
地下にある牢は当然日の光が射しこまず、頼りない燭台の明かりだけでは今が昼か夜かも分からない。ただ、衛兵が五、六回食事を持ってきた気がするので今は二日目の夜だろう。
あれからリリアンはずっと悪夢の中をさまよい続けているようだ。薄汚れていてカビ臭く、足の先が冷える石造りの床の牢に閉じ込められていることよりも、この先自分がどうなるかまったく分からないことよりも、血を吐き倒れたギルバートの姿が目に焼き付いていてつらい。
もう何百、何千回神に祈っただろうか。どうかギルバートが無事ですように、と。
リリアンは何度も何度も神に祈りながら泣き続け、疲れてはいつの間にか眠りに落ちるのを繰り返していた。食事を摂ることも忘れ、身体が震え頭痛を感じたことでようやく脱水症状になりかかっていることに気づき、水を飲んだだけだった。
今はギルバートの無事を神様に願うことしか出来ないと思い、ひたすら祈っていたが、ふと改めてことの不可解さが頭によぎった。
(あのケーキに毒を入れたのは誰……?)
ギルバートを安心させるために、人参の育成から収穫、調理から盛り付けまで全部リリアンがしたはずだった。そばではシェフや侍女たちも見ていた。誰かが毒を仕込む隙なんかあっただろうか。
それに、今さらギルバートを殺そうとする者はいないとジェフリーは言っていた。シルヴィア復権派はもうどうあがいたところで玉座には戻れないし、万が一ギルバートが嫡子をもうけないうちに亡くなったら、次に王位を継ぐのはイーグルトン家の血筋を汲むローウェル公爵家だ。しかし公爵家は子供がおらず年老いた者ばかりで、王位に執着しているとは思えない。
(いったい誰が、なんのために……)
考えたところで、答えなど浮かばなかった。ただ犯人が誰であろうと、ギルバートの命を奪おうとした者をリリアンは許せないと思う。
怒りと悔しさに、こぶしを握りしめたときだった。