王宮メロ甘戯曲 国王陛下は独占欲の塊です
肩口に寄せられた金色の髪がふわふわと頬にふれてくすぐったい。ギルバートの身体は小柄だけど、決して華奢ではなかった。服越しにでもしっかりした骨格が感じられて、きっと将来は長身になるだろうことが窺える。そんな男らしさに気づいてしまって、リリアンはますます顔を赤くさせた。
「ギル……もういいでしょう? 離れて」
ドキドキする胸が苦し過ぎて、リリアンは彼の身体を押し離そうとした。けれど。
「ねえ、リリー。お願いがあるんだ」
ギルバートが意外なことを言い出して、リリアンはキョトンとして手の力を緩めた。
「これから何年経っても、何があっても、僕以外の男を好きにならないで。お願い」
「え?」
あまりに突飛なお願いに、なかなか思考が追いつかない。けれど、ギルバートの声は真剣そのものだ。
「約束して。リリーは誰のものにもならないって。僕のことだけを、ずっとずっと好きでいて」
そんなことを言われても、困ってしまうとリリアンは思った。
自分はまだ子供だ。これから先どんな人生を送るかなんて分からない。ギルバートのことは大好きだけど、だからといって他の人を好きにならずに生きていけるかなんて、神様にでも聞かなくちゃ分からない。
けれど。
「僕もずっとリリーだけを好きだって誓うよ。だから、お願い」
肩口から顔を離してこちらを見つめてくるギルバートの瞳は切ないぐらいに一生懸命で、見ていると泣きたくなってしまう。
「……分かったわ。私、ギルのことだけを好きでいる。約束ね」
無責任かも知れない、こんな守れるか分からない約束を紡いでしまうなんて。
それでもなんだか頷かなくてはいけない気がして、リリアンは彼の瞳をじっと見つめ返して誓った。
「ありがとう、リリー。……大好きだよ」
安心したように微笑むギルバートの顔は、窓から差し込む西日に照らされて金色に輝いているように見えた。眩いほど無垢で麗しいその笑顔を見ていると、リリアンはたった今紡いだ約束が、容易いことのように思えてくる。
ギルバート以上に魅力あふれる男の子になんて、きっとこの先会えないような気がする。
そう思うと、彼を一番好きでい続けることは、何も難しいことだとは思えなかった。