王宮メロ甘戯曲 国王陛下は独占欲の塊です
コツコツ、と通路を歩いてくる者の足音が聞こえた。見回りや食事を運ぶ兵士のヘッセルブーツの音とは違う。かかとの高いレザーシューズが響かせる音だった。
その足音がこちらへ向かって来ていることに気づき、リリアンはハッと顔を上げる。同時だった。牢の前に人影が立ったのと、リリアンがそれを誰か見止めたのは。
「……ロニー……」
名前を呟くと、ロニーは口の前に人差し指を当てて「静かに」と促した。リリアンは黙って頷く。
「ギルバート様はご無事です。今ここを開けますので、一緒に来てください」
リリアンは思わず歓喜の声を出しそうになって、慌てて口を両手で押さえた。けれど今まで張り詰めていた緊張の糸がほどけ、安堵の涙が一気に込み上げてくる。
(生きてる……! ギルが、無事に……! ……良かった……)
嗚咽が口から洩れないよう必死に手で押さえ、リリアンはボロボロと涙を流した。今までショックと不安で固まってしまっていた心が、ようやく感情を取り戻した気がする。
(良かった……ギル……本当に良かった……)
神様に何万回感謝しても足りない気分だった。瞼の裏にはギルバートの姿が次々と浮かんでは消え、彼への愛おしさが大きく膨らむ。今すぐ会って抱きしめて、そのぬくもりが変わらないことを確かめたい。
声を殺しながら感涙に咽ぶリリアンをロニーは同情するような眼差しで見ていたが、小さく声を潜めると「さあ、ギルバート様がお待ちです。参りましょう」と言って、牢の鍵を開けてくれた。