王宮メロ甘戯曲 国王陛下は独占欲の塊です

「ここは王宮庭園の外れにある離宮です。……今は誰も使っていませんが、七年前までギルバート様はここでお育ちになりました」

その説明を聞いてリリアンはやるせない気持ちを抱いた。二度と籠の鳥には戻らないと言っていたギルバートの言葉が蘇る。彼を閉じ込め続けた忌まわしい離宮に、今は身をひそめ助けられているとはなんと皮肉なのだろう。

厨房を出て静まり返った廊下を歩き二階へ行くと、ロニーはとある部屋の前で停まり扉をノックした。

「リリアン様をお連れしました」

しばらく静寂が流れたあと、カチャリと小さく解錠の音がする。そしてロニーが扉を開けると、真っ暗な室内がリリアンの目に飛び込んできた。カーテンを閉め切っているせいで月明かりすら差し込まない部屋に、蝋燭だけがひとつ灯っている。その仄かな灯りの中に、彼はいた。

「——ギル……!」

大きな声を出してはいけないと分かっているけれど、その名を呼び掛けずにはいられなかった。

闇に紛れてしまいそうな真っ黒い外套を着て深くフードを被っているけれど、蝋燭の灯りが映し出す空のように青い瞳の輝きは隠しようもなかった。正真正銘、リリアンがこの世で一番愛しているギルバートのものだ。

ギルバートは注意深く扉から離れ腰に帯刀した剣の柄に手を掛けていたが、リリアンとロニーの姿を見止めると、すぐに警戒態勢を解いた。

「リリー……!」

剣の柄から手を離し被っていたフードを脱いだギルバートは、泣き出しそうな笑顔を浮かべて両腕を広げる。

リリアンは駆け出して、ためらいなくその腕の中に飛び込んだ。
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