王宮メロ甘戯曲 国王陛下は独占欲の塊です

「身上書を書き間違えただけの可能性もあります。けれど、訝しく思ったのでさらに調べてみたところ、ファニーが登城した二ヶ月後、城下町の河川から身元不明の死体が見つかっていました。顔は削がれ腐敗が激しかったので身元は特定出来なかったけれど、骨格から十代半ばの女性のものらしいという判断が当時の治安判事の見立てです」

ロニーが言おうとしている推測に、リリアンはゾッと鳥肌を立てた。

ただの偶然をこじつけただけかも知れない。けれど、可能性がゼロとは決して言えないだろう。本物の十四歳のファニーが殺害され、得体の知れない女がファニーになり替わり、侍女として登城していた可能性が。

「じゃ……じゃあ……、今いるファニーは……」

あまりの醜悪さに声が震える。目的のためなら手段を択ばない恐ろしい女が、今までそばにいただなんて。どうか間違いであってほしいと思った。

カタカタと小さく震えるリリアンを見てロニーは続きを話すことを少しためらったが、ギルバートが彼女の肩をしっかりと抱き寄せ頷くのを見て、口を開きなおした。

「……彼女がこまめに手紙を出していたという下女の証言がありました。あて先は……メーク島」

聞きなれない島の名前だが、確かに憶えがあった。ジェフリーから聞いた、シルヴィアとエリオットが流刑された島だ。

これでファニーが今回の犯人だということは、ほぼ間違いないだろう。

彼女こそ、この王宮に巣食う“亡霊”だったのだ。

ファニーにとって今回のリリアンの試みは大きなチャンスだったに違いない。普段は三人も毒見係をつけ専門の給仕らが支度から配膳までするという隙のない体勢だ。それがリリアンひとりに委ねられたのだから、このようなチャンスを逃すはずがない。

ただし、彼女が失敗したことがふたつある。

ひとつは毒殺という手段を選んでしまったこと。五年前の事件以来、ギルバートは少量の毒を摂取し続け身体に耐性を作っている。種類や量にもよるが今回は解毒が早かったことも功を奏し、ほぼ健康に害はなかった。

ギルバートが無事であることはまだ宮廷内に伝わっていない。回復したギルバートは敵の再来を警戒し、秘密の抜け道を通ってすぐにこの離宮へと身をひそめた。ベッドは抜け殻だが、ロニーが看病を一任しているので誰にも気づかれていない。ファニーは今頃、彼を確実に殺すことが出来たか気を揉んでいるだろう。

そしてもうひとつは、ギルバートだけでなくロニーもリリアンに絶大な信頼を置いていると把握していなかったことだ。もしふたりの間に信頼関係がなければ、ロニーも他の臣下らと同じようにケーキを作ったリリアンを犯人だと信じて疑わなかっただろう。しかしリリアンが毒を入れたなどとこれっぽっちも思わなかった彼はすぐさま他に犯人がいることを見抜き、ファニーが容疑者であることまで辿り着いた。

そのふたつはギルバート側にとって大きな反撃のチャンスとなる。しかし。
 
< 136 / 167 >

この作品をシェア

pagetop