王宮メロ甘戯曲 国王陛下は独占欲の塊です
リリアンがその約束に籠められた意味も、本当のギルバートのことも知らないうちに、別れは唐突に訪れた。
それは彼がこの屋敷に来てもうすぐ一年が経とうかという春。
まだ朝もやの晴れない早朝の農道に、数台の馬車の車輪音が響いた。
まだ夢の中にいたリリアンは、屋敷の前に六頭立ての立派な馬車が停まったことを知らない。そしてスヤスヤと眠るリリアンの唇に、ギルバートがそっとキスをしに来たことも。
「またね、リリー。約束、守ってね」
眠っているリリアンにそう告げて、ギルバートは静かに部屋を出ていった。
そして、あっけないほど突然に、ギルバートはリリアンの世界からいなくなってしまったのである。
「ギルの馬鹿、馬鹿、馬鹿ぁっ!」
目が覚めてからギルバートとロニーがいなくなったことを知ったリリアンは、部屋の枕に、クッションに、ベッドに、八つ当たりした。
ジェフリーの説明によると、ギルバートの家の都合で急に帰らなくてはいけなくなったのだという。けれど、その“家”がどこにあるのか、いったいどんな都合なのかはジェフリーも屋敷仕えの者も、誰も教えてはくれなかった。
リリアンはギルバートのことを何も知らない。
ある日突然、従僕として現れた男の子。フワフワの金髪と青い目がまるで天使のように愛らしくて、リリアンのことが大好きな甘えん坊。
従僕の仕事はあまり上手ではないけれど、リリアンを喜ばせることはこの屋敷で誰よりも得意だった。
——たった、それだけ。