王宮メロ甘戯曲 国王陛下は独占欲の塊です
「神様がいるんだったら僕は詰め寄りたいよ。どうしてこんな事件にリリーを巻き込んだんだ、ってね。狙われるのも陥れられるのも、僕ひとりでいいのに」
ギルバートは後悔しているのかも知れない。人参が食べられないと言った自分の言葉が発端で、リリアンをこんな状況に巻き込んでしまったことを。
「……きみを危険にさらすくらいなら、いっそ——」
そう呟きかけた彼の口を、リリアンは両手で押さえて塞いだ。
「……駄目、そんなこと言っちゃ。絶対に」
菫色の瞳でギルバートをきつく見据える。それだけは口にしてはいけない。
——いっそ、王位など捨てて遠くへ逃げてしまおうか。
ギルバートの唇は、確かにそう綴ろうとしていた。未だに命を狙われ続けることに辟易とした疲労と、リリアンを巻き込んだやるせなさを滲ませた青い瞳が、言葉以上にそれを伝えていた。
けれど、それを言葉にすることは許されない。ロニーをはじめ、ギルバートを王位につかせることに人生を捧げてきた人たちのためにも。受け継がれてきた由緒正しきイーグルトン王家の血と魂のためにも。
「……ギル。男の子は強くならなきゃ駄目よ。どんな苦難にも胸を張って立ち向かうの。そうじゃなくちゃ、大切なものを守れないわ」
「僕にとって大切なのは——」
言いかけたギルバートの口を、リリアンは再び塞いで告げる。
「守って。この国を。あなたと私の天国(エデン)を」
揺るがない意志を籠めた瞳でまっすぐ見つめ願われた言葉に、ギルバートの表情がわずかに変わった。