王宮メロ甘戯曲 国王陛下は独占欲の塊です

ギルバートにとってリリアンが天国だというのなら、自分を生み育んだこの国こそが天国だとリリアンは思う。

ステルデン王国があったからリリアンは生まれ、健やかに成長し、ギルバートと巡り会うことが出来たのだ。たとえこの国を司る宮殿で欲望にまみれた滑稽劇が繰り広げられたとしても、その奇跡の尊さは変わらない。

ギルバートは口を噤んだまましばらくリリアンを見つめ返し、それからふっと目もとを和らげた。

「……分かった。約束する。リリーもこの国も、必ず守ってみせる」

心が伝わったことが嬉しくて、リリアンの顔にも笑みが浮かぶ。

ふたりは互いに無事を祈るように抱擁し合い、身体をほどくとしっかりと頷き合った。

窓の外はすでに夜の帳が降りている。さいわいなことに月が雲に隠れているので、極秘任務を遂行するにはうってつけだ。

衛兵の制服を着たギルバートが記章のついた筒型のシャコー帽を目深にかぶり、金の髪と青い目を隠す。

「それじゃあ僕は先に寝室へ行っているから。……我らに神のご加護があらんことを」

いよいよ作戦が始まる。胸の前で手を組み祈りを捧げてから、ギルバートは部屋を出ていった。

暗闇に消えていくその背に、リリアンとロニーも無事を祈る。

(絶対に失敗する訳にはいかない。ギルのために、みんなのために、この国のために)

硬く手を組み祈りながら、リリアンは鎖帷子に包まれた胸の奥に深い覚悟を据えた。


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