王宮メロ甘戯曲 国王陛下は独占欲の塊です
ギルバートが部屋を出てから三時間後の、深夜零時。
リリアンは予定通り王宮の裏口へと立つ。ファニーがあの手紙におびき出されたなら、ここで待ち合わせのはずだ。
水場の奥にある裏口は小さく、人がひとり通れるぐらいの古びた樫の扉だ。けれど国王の毒殺未遂があったばかりなので警備は固く、衛兵がついている。
リリアンが固唾を呑んで見守っていると、零時の鐘が鳴った。それを合図に、ロニーの言った通り衛兵は手にランタンを持ち、周囲の見回りへと行ってしまう。その隙をついてリリアンは隠れていた茂みから飛び出し扉の前まで行くと、二回繰り返しノックをした。
少し間が空いたあとキィと木のきしむ音がして、わずかに扉が開かれた。その隙間から褐色の瞳がこちらを窺っている。
「……ファニー」
リリアンは小声で呼びかけ、少しだけ外套のフードをずらして顔を見せた。すると、扉がさらに開かれランタンを手にしたファニーが顔を出す。
「リリアン様……、さあ、早く中へ」
仄かな灯りに照らされた彼女の顔は、いつもと何も変わりないように見えた。むしろ、リリアンの無事な姿を見て安堵しているようにさえ見える。
(本当に……ファニーが犯人なの……?)
今さらそんな疑問がよぎってしまうほどだった。リリアンに従順で素直な感情を表すこの人物が、本当に国王殺害を企てるような悪人なのだろうか。
けれど油断はいけないと心の中で自分を律して、リリアンは真っ暗い廊下の続く王宮内へと脚を踏み入れた。