王宮メロ甘戯曲 国王陛下は独占欲の塊です
ギルバートの寝室の前には衛兵がいるので、ふたりはリリアンの部屋を経由して行くことにした。リリアンの部屋からギルバートの寝室に通じる扉があることは極一部の者しか知らないのが幸いした。
たった三日ぶりだというのに、自室に足を踏み入れたリリアンは泣きたいような懐かしさを覚える。この部屋でギルバートと甘い攻防を繰り広げていたのが遠い日のことのようだ。
その郷愁にも似た想いが、胸の勇気を再び奮い立たせる。
(……取り戻したい、ギルとの平和だった日々を。ううん、必ず取り戻すわ)
そしてついにリリアンとファニーは、目的の寝室へと辿り着いた。
国王の寝室は大仰な広さだ。ベッドサイドのランプの灯りにぼんやりと照らされた室内は、マホガニーの鏡板とベルベットの壁紙で覆われている。厚手のつづれ織りのカーテンで覆われた窓からは月明かりも漏れず、部屋には静かな闇がたゆたって見えた。
唯一の灯りであるランプの隣に、巨大な四柱式寝台がある。金の浮き出し加工がされたダマスク織りカーテンに覆われていたが、わずかに捲られたその隙間からベッドの中が覗けた。
リリアンは息を呑む。ギルバートは先にこの部屋へ戻りどこかへ待機しているはずだ。ファニーが凶行に走った瞬間を捕えると言っていたが、果たしてどこに潜んでいるのだろうか。ベッドにはリネンにくるまれた膨らみが見える。もしやあれがそうなのだろうか。
「……眠っていらっしゃるみたいですね」
同じものを目に捉えて、ファニーが小声で言った。
リリアンは怪しまれないようにファニーから距離を取りつつベッドへ近付く。心臓が限界まで早鐘を打っていた。
ファニーは本当に今ここでギルバートの息の根を止めようとするのだろうか。こちらの思惑通りに本性を現して欲しいという焦りと、やはり彼女が犯人というのは何かの間違いであって欲しい気持ちがせめぎ合う。