王宮メロ甘戯曲 国王陛下は独占欲の塊です

「——だから私が証言してさしあげます。リリアン様はお慕いしているギルバート陛下との身分差に悩み、愚かにも心中を図ったのだと」

まるで、いつものたわいないお喋りのような抑揚だった。だからリリアンは一瞬その意味を計りかね、判断が遅れた。

言葉の意味を理解したときにはもう、目の前に刃が迫って来ていた。ファニーの手からまっすぐにリリアンの喉元に向けられた刃が。

「——っ……!!」

もはや避けようもなかった。判断が遅れたのだと自覚したリリアンは叫ぶ暇もない。

けれど。ファニーがドレスの袖から短剣を現したことに、先に気づいた者がいた。そして、駆けつけるより早くそれを阻止出来た者が。

リリアンの首に切っ先がふれる直前。ダンッという大きな音と共にファニーの身体が床に伏せった。

リリアンは目を瞠る。何が起きたのか理解出来なかった。網膜に残っているのは金色の残像。今確かに、リリアンに刃を突き立てようとしたファニーの真上に、何かが“降ってきた”のだ。

「リリー大丈夫か!?」

叫ぶような声を聞いて、リリアンはやっと理解する。

頭上から降ってきてファニーを全身で取り押さえたのは、ベッドの天蓋に身をひそめていたギルバートだったのだと。

「ぐ……っ、あぁ……っ」

全体重をかけ背中に圧し掛かられたファニーは、ギルバートの下で苦しそうに呻く。もはや力の入っていない手をギルバートが捻りあげれば、握られていた短剣がたやすく落ちた。

けれど彼は端正な顔に恐ろしいほどの怒りを滲ませた表情で、帯刀していた剣を抜き、自分の下で床に倒れ込んでいるファニーに向かって振り上げた。
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