王宮メロ甘戯曲 国王陛下は独占欲の塊です

ギルバートは出身地も、どんな家族構成かも教えてくれなかった。それどころか彼は姓すらも名乗ってくれなかったのだ。リリアンも最初は聞きたがったけれど、質問するたびに彼が困った顔をするので、やがて尋ねるのをやめた。

誕生日も教えてくれなかったことは不満だったけど、そのかわりリリアンはギルバートがこの屋敷に来てから一年目の日を祝ってあげようと思っていたのだ。

手紙を書いて、ギルバートの名前を刺繍したハンカチを用意して、当日は彼の好きなミルクのブラマンジェをシェフと一緒に作ろうと計画していた。あとたった半月後のことだった。

リリアンはギルバートに贈るはずだったハンカチを胸に抱きしめてわんわん泣いた。こんなに悲しくて寂しいのは生まれて初めてだと思った。父母が亡くなったときもたくさん泣いたけれど、あのときは幼かったからここまで感情が複雑ではなかった気がする。

今は彼を失って悲しい気持ちや、黙って突然いなくなられたことに対する悔しさ、それからあまりにも幸福だった日々の思い出が深い寂しさを落とす。そして。

『リリー、大好きだよ』

ギルバートの笑顔が、ふれ合ったときのぬくもりが、忘れられない。

泣いても泣いても癒されない胸のこの痛みが、『失恋』というものだとリリアンが知るのは、まだまだずっと先のことだった。

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