王宮メロ甘戯曲 国王陛下は独占欲の塊です
エリオットは母親のシルヴィアとは違い穏やかな性格だったという。権力よりもささやかな幸福と穏やかな暮らしを望んでいたが、野心家な母と周囲の思惑によって翻弄され続けた。
ギルバートも何度も命を狙われ、裏切られ、欺かれてきたが、エリオットもまた同じだったのだ。しかも彼は最終的に敗者となり、過酷な環境の流刑地へと送られた。もはや生きる気力などとうに尽きている。
粗末な服を着て罪人の暮らす小屋で佇むエリオットに、王太子であった少年の頃の面影などなくなっていた。いつもメイベルに柔らかく微笑みかけてくれていた顔は感情を失くし、空虚な瞳は何も映していない。
メイベルと再会しても、エリオットは笑うことも何かを語ることもなかった。けれどある日、彼がメイベルの手をそっと握り独り言のように呟いた。『私を、殺してくれないか』と。
その瞬間から、メイベルは自分の中の良心をすべて捨て去った。この世界に神などいない。慈悲などない。ならば、エリオットを生きる屍にしたギルバートを自分が地獄に落としてやろうと。そのためには何を犠牲にしたっていい。手を血に染めることも、厭わない。
メイベルは七年ぶりにステルデン王宮へと舞い戻った。登城しようとしていたファニーという少女を殺し、成り代わって侵入した宮廷内はすでにギルバート派の者達で埋め尽くされていて、メイベルの顔を知る者はひとりもいなかった。
そうして復讐の機会を窺っているうちに出会ったのが、リリアンだった。
メイベルはそれ以上のことは語らなかったが、リリアンは彼女の怒りと苦しみが痛いほど分かる。
幼馴染と互いに想いあっているという同じ立場でありながら、不幸のどん底に突き落とされた自分達と違い、愛を育み合っているリリアンとギルバートを目の当たりにしてメイベルが何を思ったかなんて、考えるまでもない。
それは皆同じ思いのようで、ギルバートもロニーも、さすがに神妙な顔つきで口を噤んだ。