王宮メロ甘戯曲 国王陛下は独占欲の塊です
けれど。
「……メイベルの気持ちは分かる。でも、悪いのはギルじゃないわ」
リリアンはやりきれない思いにこぶしを震わせ、ギュッと外套を掴んで言った。涙に頬を濡らしたメイベルが俯かせていた顔を上げ、キッと睨みつける。
その眼差しにも怯まず、リリアンは菫色の瞳で見据え返して続けた。
「ギルは自分を守っただけ。そうしなければ自分が追い落とされ、殺されていたんだから。王位争いはふたりの王子をたくさん不幸にしたわ。ギルにだって深い傷跡がいくつも残ったこと、あなただって知っているでしょ?」
「でもあなたたちは今幸福じゃない! エリオット様は、エリオット様は……もう笑ってくれないのよ……」
メイベルの瞳から再び涙が溢れ出す。復讐さえ失敗した女の無防備な泣き顔は、あまりにも哀れに映った。
リリアンはそんな彼女の手を掴み、握りしめて強く説く。
「だったら! だったらあなたはこんな所にいちゃ駄目でしょう!? 彼のそばにいて、傷を癒して、励まして、奮い立たせなくちゃ! 彼の笑顔を取り戻せるのはあなただけじゃないの、メイベル!」
考えれば考えるほど、この復讐は誰も救われないとリリアンは思った。なぜなら、七年前醜い争いに巻き込みたくなくてメイベルを王宮から逃がしたエリオットが、彼女の手を復讐の血に染めることなど望んでいるはずがないのだから。
「愛する人に抱きしめられることがどれほど心強いか……、あなただって知っているでしょう? エリオットを抱きしめる以上に大切なことが、今ここにあるの?」
言い含めながら、リリアンの瞳も涙に濡れていく。