王宮メロ甘戯曲 国王陛下は独占欲の塊です
「……言ってる意味がよく分からないわ」
「だからー、ようやくリリーと結婚出来る舞台が整ったんだよ。ローウェル公爵がきみを爵位継承権付きの養女にしてくれるんだ。これできみは公女になり、めでたく身分差がなくなって僕と結婚出来るんだよ。楽しみだねえ。ウエディングドレスは歴代一豪華なものにしてあげるからね」
数秒かけてリリアンは頭の中を整理したのち、「はぁあ!?」という大声と共に勢いよく椅子から立ち上がった。
ステルデン王国の教圏では貴賤結婚は禁止されている。けれど、貴族の養子縁組は両家の合意と国王、議会、教会の承認さえ得られれば認められている。しかもローウェル公爵家、つまりドーラ夫人とその夫には子供がいないので、ステルデン王国の継承規定に則り養女であるリリアンが爵位を受け継げるのだ。
そうなればリリアンはもう下級貴族の娘ではなく、王家との結婚が許される公女だ。ギルバートとの婚姻に何も問題はない。
「な、何それ!? 私なにも聞かされてないわ!」
「うん、ごめんね。なかなかローウェル公爵が首を縦に振ってくれなくてね。きみをハラハラさせたらいけないと思って黙ってたんだ。でもドーラ夫人が『リリアン様は陛下を唯一お支え出来る気丈夫なお方です。ローウェル家に相応しい教養と品格はわたくしが身につけさせます』って説得してくれて、ようやく合意を得たんだ」
あのドーラ夫人が夫に向かってそんな風に窘めてくれたのも驚きだった。てっきり彼女は田舎娘のリリアンが目障りであれこれ口煩くしてきたのだと思っていたが。まさかそれがリリアンを自分たちの娘として相応しい女性にするための教育だったなんて。
「じゃあ……私以外みんな知ってたの?」
「みんなじゃないよ。ローウェル公爵夫妻ときみの祖父のジェフリー。あとロニーも知ってたけど……あいつは上手くいくとは思ってなかったみたいだな。肝心の公爵が頑なに反対してたからそう考えたんだろうけどさ。馬鹿だよね、それぐらいでこの僕がリリーをあきらめる訳がないのに」
あくまで呑気に笑うギルバートに、だんだん腹が立ってきた。
そんな計画ならさっさと話してくれればいいのに。ギルバートとは結婚できないと思い込んでいたリリアンが、どれだけ悩んで愛人になる覚悟を決めたか。きっと彼はこれっぽっちも気づいていない。