王宮メロ甘戯曲 国王陛下は独占欲の塊です
「リリアン様、歩く速度が速すぎです。もっと歩幅を狭めて、しとやかに。それから畑に行く際は必ず侍女に日傘を持たせなさい。黒く焼けた肌で真っ白いウエディングドレスを着るおつもりですか」
リリアンが公爵家に養子縁組することが大々的に公になったせいか、ドーラ夫人は以前にもまして口煩くなったような気がする。
けれどそれが彼女なりの愛情であり責任であることが分かったから、リリアンはもう不満を抱くことはなかった。
「はーい、お母様」
素直に返事をすれば、ドーラ夫人のいかめしい顔つきにほんのり紅が差す。
「“お母様”はまだ早いです。正式に手続きが終了するのは来月なのですから。けじめはつけなくてはいけませんよ」
子供のいないドーラ夫人にとって、結婚のための縁組とはいえリリアンは初めて持つ娘になるのだ。どうやらそれは彼女にとって満更でもないどころか、なかなかどうして幸福なことらしい。
そんなふたりのやりとりを見て、畑のそばに置かれたティーテーブルからジェフリーが楽しげに声をかけた。
「リリアンにはずっと両親がいなかったから、早くドーラ夫人を母と呼びたくて仕方ないのですよ。どうぞ存分に呼ばせてやってくだされ」
手塩にかけた孫娘にもうすぐ最大の幸福が訪れることに、ジェフリーもずっと顔が綻びっぱなしだ。
聞けばなんとジェフリーは、七年前にギルバートから告げられていたという。『必ず国王になってリリアンを迎えに来る』と。
彼はギルバートが少年ながら利発で思慮深いことを知っていたので、その宣言が必ず実現すると信じていた。だからギルバートが用いたこの作戦も、リリアンがいずれ王妃になることも、すべて承知の上だったのだ。