王宮メロ甘戯曲 国王陛下は独占欲の塊です
あれから十九年。
幼いギルバートを守り相応しい教育を施し、王位継承争いに勝ち抜き彼を玉座に座らせ、その座を安泰なものに出来た。ロニーはようやく彼女との約束が果たせたことに、深い安堵の溜息を吐く。
「今の陛下のお姿を見たら、あなたはなんとおっしゃられるでしょうね」
答えの返ってこない肖像画に向かって、ぽつりと呟いた。
スイカズラ模様の額に収められたミレーヌは、淡い笑みを浮かべたままこちらを見ている。
前国王が再婚したときにミレーヌの絵や銅像はすべて処分されてしまったので、彼女を描いた絵画は、ギルバートが王太子になったときに画家に描き直させたこれ一枚のみだ。
昔のスケッチから描き起こさせたので当時はあまり似ていない気もしたけれど、もう慣れた。美しかったミレーヌの姿は今も色あせずにロニーの心の中に残っている。けれどここに来てしまうのは、やはり話しかける対象が目の前に欲しいからなのだろう。
今や宰相となり国王の第一の側近という身分になっても、己の心が忠誠を誓うのはミレーヌ王妃ただひとりだとロニーはつくづく思う。
異国から嫁ぎ常に気高く、それでいて深い愛情を臣下にも国民にもかけていた王妃。ロニーは閲兵式で初めて彼女から言葉を賜った日を忘れられない。
『この国を守ることが、どうかあなたの幸福になりますように』
たかが一兵卒にすぎない自分の幸福を願ってくれた王妃に、ロニーはあの日恋に落ち、魂の忠誠を誓った。
すべてが終わった今、振り返ってみて思う。ミレーヌとの約束を果たしギルバートを守ること、それはひいてはこの国を守ることだ。遠い日に彼女が願ってくれたことは、今、確かに叶った。