王宮メロ甘戯曲 国王陛下は独占欲の塊です
ギルバードが突然姿を消した日から年月は流れ、リリアンは十七歳になっていた。
柔らかな栗色の髪は背中まで伸び、咲初めの菫を閉じ込めたような瞳は揃った睫毛に縁取られ、形のいい艶やかな唇と相まって、リリアンはお人形のように可愛らしい面立ちに成長していた。
身体だってもう立派なレディだ。しなやかに伸びた手足と女性らしい丸みを持った肢体は実に蠱惑的である。ドレスアップして舞踏会に出れば、間違いなく数多の男性から声がかかることだろう。
しかし。リリアンは十七歳にもなって社交デビューをしていなかった。
彼女の暮らすステルデン王国では通常、貴族の娘は十六歳になったら教区の司祭の拝謁を賜ってから社交界デビューをする。
けれど拝謁を賜るには寄付金が必要だ。それは貴族にとってはほんのささやかな額だけど、今のリリアンにそれを用意するだけの余裕はない。
モーガン家は没落していた。
二年前、突然屋敷に不穏な男達が押しかけて来たかと思うと、亡くなった父母が借金を残していたという書類を持ち出し、あっという間に屋敷中の財産を奪っていったのだ。