王宮メロ甘戯曲 国王陛下は独占欲の塊です
父母が亡くなって十年も経つのにそんなのはおかしいとリリアンは抗ったが、祖父のジェフリーは悔しそうにしながらも『今は耐えなさい。神様は必ず正しい者の味方だ』と言って、この不条理な状況を受けいれた。
金銭どころか家財や土地の権利書まで奪われ、モーガン家はもはや古びたカントリーハウスを残すのみで一切合財を失ってしまった。屋敷仕えも皆解雇し、ジェフリーは知り合いを頼って日々の食材を手に入れ、リリアンは否応なく家事を請け負う羽目になった。
リリアンは悔しくてたまらない。田舎暮らしとはいえ子爵令嬢として何不自由なく育ち、貴族として相応しい気品と教養を身につけてきたのに。いきなり小間使いのような生活に貶められて、納得できるはずがない。
けれど嘆いたところでどうにもならず、リリアンはせっかくの麗しい少女時代を家事に費やすことになり、憧れの社交デビューさえも迎えられないまま十七歳になってしまった。
ようやく雪どけの季節が訪れたある日。
リリアンは庭に芽吹き始めた雑草をひとりで刈っていた。
老築化の進んだカントリーハウスとはいえ、広さだけはそれなりにある。庭もとてもひとりでは手入れしきれず、あちこちに雑草が茂り花壇の花は枯れ、生け垣の樹木は枝が伸び放題の酷い有様だ。
けれど、だからといって放っておくことも出来ない。少しでも庭を以前のように綺麗にしたくて、リリアンは冬の家事であかぎれた手で、一生懸命雑草をむしり取っていった。
この二年の間でリリアンの手はすっかり荒れてしまった。慣れない炊事や洗濯でひび割れやあかぎれを繰り返しているうちに、手の甲はザラザラになり指先は潤いを失くして硬くなっている。とても貴族令嬢の手には見えない。
(こんな手じゃ、舞踏会で手を取って踊ってはもらえないわね……舞踏会に出る予定もないけど)
そんな自虐的なことを考えて皮肉な笑みが浮かぶ。もはやみじめ過ぎて涙も出ない。
こんなとき思い出すのはいつだって七年前のことだった。