王宮メロ甘戯曲 国王陛下は独占欲の塊です

(ギルは元気にしてるかしら……)

リリアンの人生の中で一番幸福で一番輝いていた時期、それは十歳の少女の頃だ。

平和でちょっぴり退屈だった日常にギルバートという天使が舞い降りてきた一年は、本当に毎日が楽しかったと思う。

お姉さんぶって彼に色々な遊びを教えたこと、一緒に夢中になって童話の本を読んだこと、ふたりで山に入って泥んこになって遊んだこと、こっそり同じベッドで寝たこと。そして——忘れられない、初めてのキス。

子供の頃の出来事だというのに、思い出すとリリアンは今でも胸が高鳴る。

あのときは驚きのあまり泣いてしまったけれど、今となっては彼が唇を奪ってくれて良かったと思う。社交デビューも出来ないこんな有様では、とうてい恋愛も結婚も無理なのだから。

子供の頃のほんの出来心でもいい。ロマンチックな思い出が出来たことは、この先きっと男性と無縁の生活を送る心の支えになるだろう。
リリアンはそう思って自分を励ました。

あれから七年もの月日が経った。きっとギルバートは優美な青年になっている頃だろう。たしかリリアンよりふたつぐらい年下だったはずだから、今頃は寄宿学校の生徒にでもなっているのだろうか。それとも家督なり家業なりを継いで暮らしているのだろうか。

背は伸びただろうか、好き嫌いはなくなっただろうか、今でも雷を怖がっているのだろうか、紅茶は上手に淹れられるようになっただろうか……。そんなことが次々と頭に浮かんできて、リリアンはいつの間にか顔を綻ばせる。

降ってわいた不幸な境遇の中で、ギルバートのことを考えるときが唯一リリアンの安らぎのときだった。そして。

「会いたいな……ギル……」

最後は必ずその想いに辿り着いた。
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