王宮メロ甘戯曲 国王陛下は独占欲の塊です
高い高い天井には王家のシンボルである双頭の鷲のフラスコ画が描かれ、いかめしい目つきでリリアンを見下ろしている。
その高い天井に届きそうなほど巨大なアーチ形の窓からは燦然と太陽の光が降り注ぎ、室内を神々しいほど眩く見せていた。
まさに、この国の頂点に立つ男が御座すに相応しい崇高な部屋に、リリアンは間抜けなほど唖然とした表情をして立っている。
「僕のこと忘れちゃった? それとも見違えたかな。だいぶ身長も伸びたしね」
目の前の男は長い睫を湛えたコバルトブルーの瞳をにっこりと細め、端正過ぎるほど整った顔に艶然とした笑みを浮かべている。輪郭を包む少し癖のあるブロンドに陽光が煌めいて、まるで彼自身が輝いているように見えた。
王家の正装服である濃紺の軍服に身を包み、国家君主たる証の金の紋章を胸に付けた彼は、ただひたすらに凛々しく麗しい。
しかしリリアンはこの美しい男を知らなかった。まるで神話に出てくる美神のような容姿なのだ、一度会ったら絶対に忘れられないはずだ。けれど、生まれてから十七年間の記憶を幾ら辿っても、こんな青年は知らない。
ただひとつ。ありえないと思いながらも、彼の吸い込まれそうなほど青い瞳にだけは覚えがあった。
そんなはずはない、絶対。と思いながらも、おそるおそるその名を呼び掛けてみる。
「……ギル……?」
まるで何かの封印が解けたかのように、彼の彫刻のような顔がぱぁっと破顔した。
「ようやく思い出してくれたね。会いたかったよ、リリー」
「う……嘘でしょうっ!?」
勢いよく抱きつかれた腕の中で、リリアンは叫ぶ。
嘘だ。そんなことはありえない、絶対。
だって彼は、私の可愛いギルは——。
混乱するリリアンの頭の中で、少女の頃の記憶がものすごい勢いで蘇っていった。
今でも宝物のように胸の中で輝き続ける、あの“七年前”の記憶が——。