王宮メロ甘戯曲 国王陛下は独占欲の塊です

リリアンがギルバートに想いを馳せながら草むしりを続けていると、馬車の車輪が近づいてくる音が聞こえた。しかも農馬車ではない。四頭、いや六頭だてだろうか。ずいぶん大きな馬車の音だ。

この付近で何かあったのだろうかと思い立ち上がったリリアンは、屋敷の正門前にぴたりと馬車が停まったのを見て目を丸くする。

さらに驚くことに、馬車は六頭立ての大型のものを先頭に中型の馬車も二台引き連れ、さらには警備の騎馬隊までゾロゾロと連れていた。こんな大仰な大群は見たことがない。

いったい何事かと正門前まで駆けて行ったリリアンは、馬車の車体についている紋章を見て驚きのあまりひっくり返りそうになった。

双頭の鷲と翼を模したチャージのエスカッシャン。威圧感さえ覚えるその大紋章は、まごうことなきステルデン王国・イーグルトン王家のものだ。

「ど、どうして王家の馬車がここに……?」

祖父のジェフリーは元宮廷官だけど、リリアンは生まれてこの方王都にすら行ったことがない。まったく王家などとかかわりのない人生を送っていたのだ。

リリアンがポカンとしていると、馬車から軍服を着た壮年の男とキッチリとしたデイドレス姿の白髪の女性が降りてきた。そして衛兵をぞろぞろと引き連れながらリリアンの前までやって来る。

「モーガン子爵家ご令嬢、リリアン様でいらっしゃいますね? 突然の訪問、お許しください。わたくしはステルデン王宮侍従長セドリック・ケインズと申します。本日は国王陛下の勅命にて、リリアン様をお迎えに参りました」

軍服姿の男が恭しく目の前で頭を下げるのを、リリアンは目も口もまん丸に開いたまま見ていた。さっぱり意味が分からない。どうして王宮から、しかもこんな丁寧に迎えが来るのだろうか。

あまりに現実味のない状況にリリアンがただ立ち尽くしていると。

「……口っ! 口を閉じなさい、はしたない!」

「へ? えっ?」

セドリックの隣に立っていた初老の女性が突然厳しい声で叱責してきた。
< 20 / 167 >

この作品をシェア

pagetop