王宮メロ甘戯曲 国王陛下は独占欲の塊です

リリアンは自分が叱られたのだということを理解するまで、数秒の時間を費やした。突然王宮の者が迎えに来たと思ったらいきなり叱られて、頭が混乱してくる。

「落ちぶれたとは言え貴族令嬢、それも花も恥じらう年頃の娘がなんですか。口をそんなにポカンと開けて、みっともない。人前に出るときはもっと表情を引きしめて、口を開けるときは扇でお隠しなさい」

「……は、はい」

女性の剣幕に圧されて、訳も分からずリリアンは返事をしてしまった。そして言われた通りに口を引き結び背筋を伸ばすと、女性は「よろしい」と言って納得したように頷いた。

「まあまあ、ドーラ夫人。突然のことでリリアン様は面食らわれているのですよ。落ち着かれるまでは、少しお手柔らかに」

セドリックが困ったように宥めたけれど、初老の女性は意に介す様子もなく一歩前に出てスカートの裾をつまみ完璧なお辞儀を見せた。

「あー、紹介いたします。こちらはイーグルトン王家の流れを汲むローウェル公爵家のドーラ夫人。王宮で女官長を務めております」

「ドーラ・ローウェルです。お見知りおきを」

セドリックの紹介を受けて名乗った初老の女性は、どうやら大貴族の夫人のようだ。しかも女官長ともなれば礼儀にうるさいのも頷けるが、どうして自分が叱られる羽目になったのかはリリアンは分からない。

けれど彼女の目がキッとこちらを見据えたことに気づいて、リリアンも慌ててスカートをつまみ膝を曲げる。

「リ、リリアン・モーガンです」

二年前までは練習していた宮廷風のお辞儀を一応して見せる。もっとも、草むしりで汚れたエプロンドレスには、到底似つかわしくないが。
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