王宮メロ甘戯曲 国王陛下は独占欲の塊です
湯浴みをしまともなドレスに着替え身支度を整えると、リリアンはジェフリーと共に例の王家の紋章が入った大型馬車に乗せられた。まさか王家の馬車に自分が乗ることになるなんて、思ってもいなかったリリアンは緊張でカチコチになってしまう。
しかもジェフリーと隣り合う自分の向かいの席にはドーラが座っているのだ。また叱責されるのではないかと思うと、嫌でも背筋が伸びた。
(息が苦しい……)
リリアンはドーラに気づかれないよう、そっと息を深く吐く。
まともなドレスは二年前から新調していない。そんなお金はなかったし、家事をするには不向きだったので、下女らが使っていたお仕着せのエプロンドレスをずっと着ていたのだ。
さすがに王宮に行くのにお仕着せをまとっていく訳にはいかず、リリアンはクローゼットを漁って一番まともそうなドレスを身につけた。けれど、十五歳から十七歳など最も身体が成長する時期である。つくろい直す間もなかったドレスは多少ボタンなどで調整が利いたものの、ローブの丈が少し短い。それに胸周りが窮屈過ぎて、立派に育ったリリアンの胸は大きく開いた襟元から零れてしまいそうだ。
「ねえ、お爺様。王宮へ行ってどなたとお会いになるの?」
何が目的でどれぐらい滞在するのかも教えてもらえないまま馬車に乗せられたリリアンは、同じ質問を何度も繰り返す。
しかしジェフリーは「王宮につけば分かるさ」と笑うばかりで、何も教えてくれない。当然リリアンの胸には不安が募るが、祖父がずっと上機嫌なのできっと悪いことではないのだろうと信じた。
そうして馬車で三日がかりで王都についたときには、リリアンはすっかりくたびれてしまっていた。なにせ途中の宿でもドーラはリリアンに対して目を光らせているのだ。
食事の仕方、挨拶の仕方、あげくには歩き方や笑い方にまでこまかく注意をしてくる。
いくら王宮の女官長とはいえ、どうして他人である自分にこんなに口煩くしてくるのだろうかとリリアンは苛立った。けれどジェフリーはそれを見てもいっさい助け船を出さないどころか「未熟な孫娘で申し訳ない」と、ドーラに謝る始末だった。
そんな状況ですっかり気持ちを疲れさせてしまったリリアンだけれど、初めて見る王都の景色には胸が弾んだ。