王宮メロ甘戯曲 国王陛下は独占欲の塊です

モーガン邸のある農村地帯とはまるで違う。道は石畳が敷き詰められ、綺麗な住宅や店が建ち並び、貴族や商人などたくさんの人が町を行き交って活気に溢れている。

王都では大流行のカフェも、大通りに並ぶオイルランプの街灯も、店頭に並ぶ色とりどりの菓子も、リリアンは初めて目にする。自分の暮らしていた村と比べるとまるで夢の国のようで、好奇心に胸がときめくのが抑え切れなかった。

けれど、輝く瞳で馬車の外を眺めていたリリアンは、やがて所在無さげに身を縮めてしまう。

(……お、王都の人ってみんなすごくお洒落……。私、なんだかみすぼらしい……?)

王都は当然流行の発信地だ。町を歩く若い娘はこぞって最新式のドレスを着ている。ルダンゴトやフレンチジャケットと呼ばれる上着をドレスに合わせ、フィシューという肩掛けをまとい、手には皆ステッキや日傘を持っていた。

リリアンはうつむいてチラリと自分の恰好を見やる。サイズも合っていないうえに、流行のジャケットも肩掛けも持っていない。そんな自分が急に恥ずかしく思えて仕方なかった。

やがて馬車は水路を挟んだ巨大な門をくぐり、王宮の敷地内へと入っていく。

ステルデン王国のオアーブル宮殿は周囲を水路に囲まれた小高い丘の上に建っていた。左右対称の巨大な宮殿は中央にドーム型の屋根を有し、外壁は彫刻をほどこした梁とジャイアントオーダーで飾られている。五階建ての白い外壁は延々と左右に伸びていて、部屋数はざっと八百はあるという。背後に広がる森は王家の狩猟区で、王宮から離れた森の手前には古びた離宮も建っていた。

リリアンは初めて目の当たりにする王宮の荘厳さに思わず息を呑んだ。モーガン家の領地にある教区教会も大きな建物だと思っていたけれど、王宮はその比ではない。小さな集落なら丸ごと収まってしまいそうだ。
< 24 / 167 >

この作品をシェア

pagetop