王宮メロ甘戯曲 国王陛下は独占欲の塊です
(だ……誰!?)
リリアンは驚愕する。いったいこの男は誰なのか。
整った顔立ちに隠しきれない高貴な気品。正装の濃紺の軍服が似合う男らしい肩幅と高身長。優美な雰囲気を持ちつつも男らしい魅力に溢れているこの青年に、リリアンは覚えがなかった。
けれど、嫌でも分かることがただひとつ。どうやら彼は——国王のようだ。
軍服に飾られている幾つもの勲章、階章の中で一際目立つ金色の紋章、それはまごうことなき国王の証だ。
リリアンはこの国の王がこんなに若い男性であることを初めて知った。なにせモーガン家の領地は王都から離れた田舎である。おまけに最近は新聞を買うお金もなかったし、町へ出る機会もなかった。ほとんど屋敷に籠もって家事に追われていたのだから、世間に疎いのも当然だ。
けれど何故国王が自分を呼びつけたのかはまったくの謎だ。しかも彼は今、親しみを込めて名を呼んだような。
頭が激しく混乱するけれど、とりあえずリリアンは落ち着くことを心がけてスカートをつまみ静かに膝を曲げた。
「エオル地方モーガン子爵家長女リリアンです。国王陛下におかれましては、拝謁の機会を賜りまして恐悦至極に存じます」
緊張で声が裏返りそうになりながらこうべを垂れると、しばし沈黙が流れた。そして突然、可笑しくてたまらないと言わんばかりに噴き出した笑い声が目の前から聞こえてくる。
「……くくっ、あはははっ! すごいね、リリー。すっかり淑女だ。きみにそんなかしこまった挨拶をされる日が来るなんて思わなかったよ」
「……は?」
ケタケタと愉快そうな笑い声をたてているのは、なんと国王陛下だ。眉目良い顔を屈託なく破顔させている。
信じられない光景にリリアンはポカンとするしかなかった。何もかもが変だ。セドリック達が屋敷に来てからというもの、ずっと自分だけが知らない世界が回っている気がする。
みんなに寄ってたかって謀られているようで、リリアンは思わず顔をしかめた。すると。