王宮メロ甘戯曲 国王陛下は独占欲の塊です
そんな彼に人生の転機が訪れたのは十二歳のときである。
エリオットがラッセルの嫡子ではないという疑いが突如持ち上がった。シルヴィアにはラッセルの愛人となる以前から睦み合っていた恋人がいて、その関係は彼女が王妃になっても続いていた。それが発覚したのだ。
このままでは息子ともども王宮を追われかねないと焦ったシルヴィアは、恐ろしい手段に出た。国王ラッセルと、国王の真の嫡子であるギルバートの暗殺を企てたのだ。
その企みにいち早く気づいたのはロニーであった。将校の息子だった彼は十六歳で衛兵として王宮に召し上げられ、ミレーヌの近衛のひとりとして従事していた。ミレーヌが不遇な目に遭ってからは離宮でギルバートに仕え、彼の近衛でもあり侍従でもあり教育係でもあった存在だ。
シルヴィアの魔の手から守るために、ロニーはギルバートを連れて逃げ出した。
未だ王妃の実権を握るシルヴィアから逃れるのは容易なことではない。信頼できる安全な場所を求めた結果、彼はミレーヌに長年仕えてきたジェフリーのもとを訪ねたのだった。
元々セイアッド人でもありミレーヌの側近だったジェフリーは、彼女の息子であるギルバートを匿うことを約束した。そうして——モーガン邸での一年が過ぎたのである。
ギルバートにとっての朗報は突然訪れた。ついにシルヴィアの悪行がすべて発覚し、彼女とエリオットは王宮を追われたのだという。そして、真の王家の血を引くギルバートをラッセルが探していると。
王宮に戻ったギルバートには王位継承権第一位の王太子の座が待っていた。
しかし安心したのも束の間、王宮にはシルヴィアの息がかかった臣下達が大勢巣食っていたのだ。シルヴィアの復権を望む者達は、巧妙な手口でギルバートを追い落とそうとした。
ギルバートはまだ少年の身でありながらロニーと協力し策略を巡らせ、その者らの企みを着実に潰していった。年老いていく国王とは反対に彼は王宮内での勢力を増し味方を増やし、身の安全と地位を確実なものへとしていったのだ。
そして昨年の冬。病に倒れたラッセルは年を越すことなく永眠した。
春になり王国の定めた喪が明け、ギルバートは法王猊下のもとで戴冠式を迎えた。ついに国王の座に就いた彼に、もはや敵はいない。
王家の正当な嫡男でありながら不遇な環境で生まれ育ち、つねに敵に囲まれていたギルバートがようやく掴んだ最大の権力と安寧と栄光であった。