王宮メロ甘戯曲 国王陛下は独占欲の塊です
「いいえ、お間違いありません。今日からここをご自由に使われますようにとの、国王陛下のご命令です」
明るい声でそう言い切ったのは、部屋に案内してきた侍従ではなかった。
リリアンが振り向くと、そこには緑のドレス纏った年若そうな娘が立っていた。
若いとはいってもリリアンよりは年上のようだ。顔立ちはやや幼いが物腰は大人の女性のそれだった。
この王宮で緑の衣装は侍従や小間使いを表す。彼女もそうなのだろうということは、一目でわかった。
娘はリリアンのそばまで来ると、ドレスの裾を持ち一礼した。
「今日からリリアンさまの身の回りのお世話をさせて頂きます、ファニーと申します」
なんと、ギルバートはリリアンに専属の侍女までつけてくれたらしい。
たかが数日滞在するだけなのに、あまりの待遇の良さにリリアンはますます顔を引きつらせてしまったが、ファニーは気にする様子もなく部屋のあちこちの扉を開いて見せた。
「こちらの扉はバススペースに、あちらが書斎へと繋がっております。どちらもお好きなようにお使いになられるようにとのことです。それからこちらがバルコニー。テーブルがありますので、申しつけてくださればいつでもお茶の準備をいたします」
「こっちの扉は?」
リリアンはファニーが東側の扉を目で追いつつも説明を省いたことに気づいて尋ねた。けれどファニーは笑顔のまま小首を傾げ、「それは後ほど分かるかと」と、よく分からない答えを述べて、すぐさま別の説明に入った。
「それから、こちらがクローゼットになります。お衣裳と装飾品など揃えてありますが、必要なものがあったらすぐにお知らせください。遠慮なさらないでくださいね。リリアン様が不自由な思いをされると、私どもが叱られてしまいます」
開かれたクローゼットを見て、リリアンはポカンと口を開けてしまう。
ただでさえ書斎やバススペースを備えた豪華な部屋は衝撃なのに、巨大なクローゼットの中には真新しいドレスが目を疑うほどギッシリと並んでいる。
思わずフラフラと歩み寄り中を覗いてみれば、城下町で見たような最新式のジャケット付きドレスや、流行のストライプ柄のドレス、それにジュエルがついたフォーマルハットや手袋、ハイヒールなどまで溢れんばかりに揃えられていた。