王宮メロ甘戯曲 国王陛下は独占欲の塊です
ファニーの手によって着せ替えられたリリアンは、それはそれは美しく変身した。
ピンクとローズピンクの細かい縦柄のドレスは色鮮やかで、リリアンの栗色の髪によく映えている。襟元のフシューには銀糸の刺繍とリボンのコサージュがついていて、清楚で愛らしい。
綺麗にまとめられた髪にもレースのリボンが飾られ、薄化粧まで施されたリリアンは鏡の中の自分の姿を、別人のようだと思った。
この二年間、年頃の乙女らしいお洒落をまったくしてこなかったのだ。自分のみすぼらしさに気後れしていた心が、少しだけ自信を取り戻す。
「リリアン様、お手をよろしいですか」
そう言ってファニーは最後に、リリアンの手に優しい香りの香油を塗ってからドレス用の手袋を嵌めてくれた。
「ギルバート陛下が急ぎでご用意してくださったんですよ」
そう付け加えたファニーの言葉に、リリアンの胸がきゅっと締めつけられる。
昨日、再会の場で手を握ったときギルバートはすぐに気づいたのだろう。リリアンの手が貴族令嬢とは思えないほど荒れていたことに。
リリアンに恥をかかせず、さりげなく気遣ってくれた彼の優しさに、紳士らしさを感じる。心優しい性格はそのままに、繊細な気配りが出来るほどギルバートは大人になったのだなと思うと、嬉しいような気恥ずかしいような気持ちが湧いた。
「どうもありがとう」
身支度を整えてくれたファニーに礼を言い、リリアンはドレッサーの前から立ち上がる。
さっきの起床といい、豪華すぎるもてなしといい、彼に言いたいことはたくさんある。けれど、何よりも先に香油の礼を言おうと、リリアンは嬉しさに疼く胸を抑えてブレックファストルームへと向かった。