王宮メロ甘戯曲 国王陛下は独占欲の塊です
驚いてとっさに突き放そうとしたリリアンの手を、ギルバートの大きな手がすかさず掴む。
「や……っ、ん、んん……、こら、ギル……っ!」
ソースを舐め終えてもギルバートの舌はリリアンの唇をねぶり続ける。リリアンが顔を背け悪戯な舌から逃れると、ようやく彼は掴んでいた手を離してくれた。
「可愛い、リリー。僕、朝食よりリリーのことを食べちゃいたいなあ」
あまりに悪ふざけの過ぎるギルバートに、さっきまでの哀れみの気持ちはどこかにすっ飛んで行ってしまった。リリアンは手元の白パンを掴むと、それを隣のギルバートの口に思い切り捻じ込む。
「ギルの馬鹿っ! 私のことからかってばっかり! もう知らないっ!」
カンカンに怒ったリリアンは自分の椅子をギルバートから離すと、彼から顔を背けて食事を摂り始めた。ギルバートは口に詰め込まれたパンを咀嚼し飲みこんでから、リリアンの席におそるおそる近付いていく。
「怒っちゃった、リリー? ごめんね、もう食事中にふざけないから」
素直に謝ってくる声は、幼い頃の彼の姿を思い起こさせる。甘えたように「ごめんね」としょんぼり言われると、リリアンは何もかも許してあげたくなってしまうのだ。
けれど、今朝の起床といい今の悪戯といい、ギルバートは少しリリアンをからかい過ぎだ。七年ぶりに再会して、今までたくさんつらい目に遭ってきた彼を慰めたいという気持ちが失せてしまう。
「もうギルなんか知らないっ」
リリアンは彼を甘やかしたい気持ちと憤慨する気持ちの板挟みになりながら、プイと顔を逸らして黙々と食事を続けた。