王宮メロ甘戯曲 国王陛下は独占欲の塊です
朝食を終えると、リリアンは途端に時間を持て余してしまう。
ギルバートは当然公務に忙しく、リリアンに構っている暇はない。ジェフリーもどうやらすでに彼の仕事に関わっているらしく、部屋を訪ねたら留守だった。
部屋で手慰みに刺繍をしながらあくびをひとつ零したリリアンを見て、ファニーが宮殿内を散歩してみたらどうかと提案してくれた。
「でも、勝手に動き回っていいのかしら?」
許されるのなら、この広く豪華な宮殿をあちこち見学してみたい。けれど政務も行われている建物内をウロウロしていいものかと躊躇していたのだ。
「南棟や中庭なら大丈夫ですよ。宮内官達が忙しくしているのは北棟の方ですから」
そうファニーに教えられて、リリアンはさっそく好奇心を逸らせながら部屋を出ることにした。
南棟は居住区だ。最上階の五階と四階が王家と親類のものとなっており、その下が臣下達の部屋となっている。王家の居住区はさすがに絢爛で、廊下には歴代国王や王妃の肖像画や胸像まで並んでいた。
ファニーに案内されながら歩いていたリリアンは、そこに飾られた一番新しい肖像画の前で足を停めた。
プレートに『第八代ステルデン王国 国王 ギルバート・ケネス・イーグルトン』と記された絵画には、王冠を被りアーミンの毛皮のマントを羽織ったギルバートが描かれている。リリアンは思わずその肖像画に釘付けになった。
黄金の額の中のギルバートは凛々しく描かれている。他の肖像画と比べて一際年若いが、国王としての威厳も充分に感じられた。けれど、じっとこちらに向けられている青い瞳はなんだか冷たそうだ。とてもよく描けているけれど、リリアンの目にこれはギルバートに見えない。