王宮メロ甘戯曲 国王陛下は独占欲の塊です
リリアンは驚いてビクリと肩を跳ねさせたあと、おそるおそる振り向いてすかさず頭を下げた。
「ご、ごめんなさい。勝手に入ってしまって。すぐに出ますから……」
やはり部外者は勝手に立ち入ってはいけなかったのだろうか。それともはしゃぎ過ぎて駆け回ったのがいけなかったのだろうか。リリアンは身体に緊張を走らせながらゆっくりと顔を上げ、叱責してきた相手の姿を見た。
「……あら?」
目の前に立つ男の姿を見て、リリアンはパチクリと目をしばたたかせる。
黒の軍服に身を包んだ長身の男は、長い黒髪をひとまとめに後ろで括っている。吊り上った眉毛に切れ長の瞳はいかにも厳しそうだが、リリアンはぱぁっと顔を綻ばせた。
「ロニー! ロニーじゃない!」
いきなり馴れ馴れしく呼び掛けられて、男は面食らったように眉をひそめる。けれど、リリアンの姿をまじまじと見たあと、謎が解けたようにパッと表情を明るくさせた。
「……リリアン様でいらっしゃいますか!?」
男は、あれから少しだけ歳をとったロニーだった。涼やかな魅力の青年は、少しだけ大人の渋みを増した壮年の美丈夫になっている。
「久しぶり! 良かったわ、あなたも元気そうで!」
リリアンが嬉しそうに声をあげながら近付けば、ロニーはすぐさま彼女の前に膝をつき恭しく手を取ってそこにキスを落とす。
「ご無沙汰致しております。リリアン様こそお元気そうで何より。此度は王家の諍いに巻き込んでしまい、多大なるご迷惑をお掛けしましたこと、心よりお詫びしたいと思っておりました」
七年前、ギルバートの避難先にモーガン邸を選んだのはロニーだ。そのせいでモーガン家がとばっちりを食い没落したことを、申し訳なく思っていたのだろう。
リリアンは彼の紳士的な挨拶に胸をドキドキとさせながらも、慌てて頭を横に振った。