王宮メロ甘戯曲 国王陛下は独占欲の塊です

リリアンの屋敷に小さな従僕がやってきたのは、数ヶ月前の春のことだった。

リリアンはモーガン子爵家の令嬢だ。王都から遠く離れた農村のカントリーハウスに祖父とふたりで暮らしている。

両親はリリアンが五歳のときに馬車の事故で亡くなった。今は祖父のジェフリーが当主だけれど、いずれはリリアンが爵位を継ぐ予定だ。

ジェフリーは王宮で宮内官を務めていたらしいが、息子夫婦が亡くなった際に辞職して、以来リリアンと共に暮らしてくれている。

屋敷には穏やかな性格の祖父と数人の屋敷仕え、周りは畑と牧場ばかりという牧歌的で少し退屈な環境に囲まれながら、リリアンは安穏と十歳まで育った。

しかし、ある嵐の夜。モーガン邸に突然の来客があった。
小さな馬車が門の前に停まったかと思うとマントを羽織った人物が数人屋敷に駆け込んできたのを、リリアンは自室の窓から見ていた。

それから何やら一階が騒がしくなり、リリアンは何かが起きているのではないかと不安でたまらなかった。窓の外は季節外れの暴風雨がガタガタと窓を揺らし、嫌な予感をかきたてる。

頭まで毛布にくるまり、神様に無事を祈りながら眠ったリリアンだったけれど——。翌日、彼女は予想外の驚きに見舞われる。

「はじめまして、リリアンお嬢様。今日からあなたのお世話をさせて頂きます、ギルバートです」

翌朝、部屋に彼女を起こしに来たのはいつもの侍女ではなく、ブカブカのお仕着せを着た小柄な少年だった。
< 5 / 167 >

この作品をシェア

pagetop