王宮メロ甘戯曲 国王陛下は独占欲の塊です
「いいじゃないか。どうせここにいる間、リリーは暇みたいだし。フラフラと宮殿内を彷徨ってるよりは、僕と一緒にいた方が絶対に楽しいよ」
なんて言い草だろうか。事情を知らなかったとはいえ、リリアンはギルバートにとって恩人のはずだ。その礼をされるために王宮へ呼ばれたはずなのに、暇人呼ばわりとは酷すぎる。
リリアンは腹が立ってまた言い返そうとしたけれど。
「それに——、目を離すと悪い虫がつきかねないからね」
ギルバートは少し声のトーンを落として、そう告げた。なんだか威圧的な雰囲気が感じられて、思わず口を噤んでしまう。部屋の雰囲気も、なんだか重くなったような気がした。
反論しないリリアンを見て承諾と受け取ったのか、ギルバートはパッと元の明るい表情に戻ると「じゃあ、決まり」と嬉しそうにひとりで頷いた。
とても納得できる話ではないけれど、そもそも国王の命礼に逆らうことなど許されるはずがないのだ。たとえ、その国王が幼なじみの甘えん坊でも。
リリアンはハーッと大きくあきらめの溜息をつくと、すっかり食欲の失せた口に小さくちぎったパンを運んだ。
「ギルバート陛下のお世話に必要なものはすべてこちらで準備いたします。リリアン様は陛下のおそばにつき、その都度ご命令に従ってください」
食後、侍従長であるセドリックはそう言って、さっそく部屋にリリアンを呼びに来た。どうやら心の準備をする暇もなく、任務が開始されるらしい。
「でも……国王陛下の近侍なんて、どうすれば……」
誰かに仕えた経験もなければ、国王陛下の側仕えなんて何をするのか想像もつかない。けれど、リリアンの戸惑いなどものともせず、セドリックは「さあ、陛下がお呼びですから」と半ば強引に彼女を連れて行く。
そして何をするのかも伝えられないまま、リリアンはギルバートの執務室まで連れてこられたのだった。