王宮メロ甘戯曲 国王陛下は独占欲の塊です

「遅いよリリー、待ちくたびれちゃった」

中に入ると、ギルバートは執務机に向かって書類の決裁をしていた。

晩餐後も仕事だなんて大変だなと感心するも、リリアンの姿を見たギルバートはペンを放り出して満面の笑みで手招きをする。なんだか却って、仕事の邪魔をしているような気がしてならない。

執務室にはロニーもおり、ギルバートの斜め後ろに立って控えている。けれど、彼は口も出さなければなんの表情も浮かべていない。仕事中は宰相として冷静さを心掛けているのかもしれないけれど、なんだか中庭のときと雰囲気が違い過ぎてリリアンは密かに緊張した。

「で? 私は何をすればいいのですか、国王陛下」

机の前までやってきたリリアンは、わざと慇懃な態度で接する。けれどギルバートはやっぱりニコニコと微笑んだままで、机の上を指さして言った。

「リリーは僕の手伝いをして。そこのペンや印章を僕に渡す、大事な仕事」

リリアンは唖然とした。確かにこのローズウッドで出来た執務机は非常に大きいが、ちょっと椅子をずらすなりすれば余裕で端から端まで手は届くだろう。それをわざわざリリアンを使って筆記用具を取らせるなど、戯れ以外の何ものでもない。

馬鹿馬鹿しい!と叫んで部屋を出ていきたいが、リリアンはまたひとつ溜息をついて観念した。つまり、ギルバートはリリアンに甘えたいだけなのだ。

若い身空ながら国王として重責を負っていることを考えると、こんな風に彼の息抜き相手になることも大切なのかもしれないと思えてきた。それにギルバートにはあまり心開ける人がいないようだ。幼なじみで気兼ねなく接せるリリアンは適任なのだろう。

「はいはい、分かりました」

半ば呆れながらも返事をすると、ギルバートは満足そうに目を細めて頷いた。
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