王宮メロ甘戯曲 国王陛下は独占欲の塊です
(まさか……、考えすぎよね)
そう思いたいが、七年前のことを思い出してしまう。幼いリリアンがロニーに夢中になっていたとき、拗ねたギルバートが唇を奪い妖しい表情を見せたことを。
あのときとよく似た蠱惑の滲む瞳で見上げてくるギルバートと、すぐそばでこんなやりとりをしているのに微動だにしないロニー。リリアンはなんだか息をするのも苦しいほど胸がドキドキして、妙な緊張感に囚われてしまった。
すると、部屋の張り詰めた空気を一変させるように、ギルバートがパッといつもの明るい笑みを浮かべた。
「ごめんね。手、ベトベトにしちゃった。今、セドリックに濡れた布を持ってこさせるから、手を拭いたら部屋に戻っていいよ」
そう言ってギルバートが机の脇の鐘を鳴らすと、すぐさま部屋にセドリックがやって来た。これで完全に室内の妙な雰囲気は払拭されたといっていいだろう。
リリアンが手を綺麗にしてから執務室を出ようとすると、ギルバートは「またね、リリー」とヒラヒラと手を振って見せた。その姿はまったく呑気であどけないものである。
けれど、無邪気な姿を見せられてもリリアンの速まった鼓動はなかなか元には戻らない。
(ギルって、ときどき冗談か本気かよく分からなくなる)
リリアンの指を舐めるなど戯れだ。悪ふざけ以外の何ものでもない。それなのに、さっきの眼差しや声は背を震わせるような威圧を感じた。まるで、獲物を死守しようと唸りを上げる獣のような。
ギルバートはよく知った幼なじみのはずなのに、リリアンは少しだけ彼のことが分からなくなってしまった。