王宮メロ甘戯曲 国王陛下は独占欲の塊です
「嫌い、嫌い! ギルなんて大っ嫌い!」
ついにリリアンは感情の堰を切らせ、わぁわぁと泣き出してしまった。
ギルバートはそんな彼女を見てじっと渋い顔をしていたが、やがて脱力したように大きく息を吐いた。
「……やっぱリリーに泣かれると駄目だ。萎えちゃうや」
ざばっと沢山の水を引きつれて立ち上がると、ギルバートはずぶ濡れのジュストコールとジレを乱暴に脱ぎ捨て、バスタブから出ていった。
そして近くに用意されていたタオルを取ると、それを持ってバスタブまで戻りリリアンの頭にかぶせる。
「立って、リリー。今、侍女を呼ぶから。そのドレス脱いで待ってな」
そう言い残すとギルバートは自分の肩にもタオルをかけて、そのまま部屋から出ていこうとした。
急に態度を変えたギルバートに、リリアンが目をしばたたかせながら見つめていると。
「……ちぇ。リリーの馬鹿」
子供のようにいじけた顔でチラリと振り向きながら、彼は小さく呟いて扉を出ていった。
「ば……馬鹿はそっちじゃない!」
咄嗟に言い返したけれど、すでに扉の外に出ていた彼に届いたかは謎だ。
少しぬるくなった湯のバスタブにひとり残されたリリアンは呆然としてしまう。もうギルバートのことが全然分からない。
軽薄な欲望をぶつけてきた彼は、もはやリリアンの知っているギルバートではないと思った。誰よりも一番リリアンに優しく、彼女を喜ばせてくれた愛しい幼なじみはもういないのだ。
そう考えるとリリアンの中には再びこらえがたい悲しみが湧き上がって、溢れた涙は虚しく湯に波紋を立てて落ちた。