王宮メロ甘戯曲 国王陛下は独占欲の塊です
「これでいい? あんまりきつくすると内臓によくないらしいよ」
呑気な気遣いを見せながら、ギルバートは器用な手つきで紐を結ぶ。リリアンは驚きのあまり固まってしまったまんまだ。
するとギルバートは身体を離し、椅子の上に掛けてあったドレスを手渡してくる。
「おはよう、リリー。ずいぶん早起きだね。で、どうして侍女も呼ばずにせっせとひとりで身支度してたの?」
信じられない、という表情でリリアンは彼を見つめた。昨夜あんなことがあったというのに、どうして彼は何も変わらずいられるのだろう。
(……結局、ギルにとって私が泣いて怒ったことは取るに足らない出来事なのね)
そう思うと、また悲しい気持ちが込み上がってきた。
「ほっといて。ギルには関係ないわ。それに、なんでギルまでこんな早起きなのよ。まだ寝てればいいのに」
返す言葉が、つい刺々しくなる。もうこれ以上構わないで欲しいし、王宮を出ていくことを知られて咎められるのも嫌だった。
「朝早くから隣の部屋でドタバタやってるんだもん。そりゃ目が覚めて何事かと思うさ。 で、鞄を用意して手紙を残して、リリーは僕に無断でどこへ行こうとしてたのかな?」
部屋をぐるりと見回してギルバートが言う。どうやら彼にはリリアンの企みがバレバレらしい。
リリアンは一瞬言葉に窮したが、開き直って口を開いた。
「帰るの、屋敷に。もうここにはいたくないから」
きっぱりと言い切ると、ギルバートは驚いた様子も見せずにハーッと溜息を吐き出した。
「すごいよね、リリーは。この王宮で僕の言うことをきかないのは本当にきみだけだよ。まあ、そういうところがきみらしくて凄くいいんだけどさ」
褒めているんだか呆れてるんだか分からない言い草だ。
ギルバートは自分の前髪をくしゃりと乱暴にかきあげると、今度は静かな溜息を吐いてから言った。