王宮メロ甘戯曲 国王陛下は独占欲の塊です
リリアンが窘めると、ギルバートは口を噤んで考え込んでしまった。形のいい眉が八の字型に下がってしまっている。まるで餌をもらえない子犬みたいだ。
「……リリーは僕のこと嫌いなの?」
昨夜と同じ質問だったが、リリアンは今度は冷静に意見を述べる。
「私がギルを嫌いな訳ないじゃない。でも、それとこれとは別よ。ああいうことは戯れでしていいことじゃないわ」
「別じゃないし、僕は戯れのつもりでもない」
間髪入れず反論されてしまい、今度はリリアンが眉をひそめてしまった。
ギルバートは国王だ。今は独身だけどいずれ王妃を娶るのだろう。それは他国の王女かもしれないし、このステルデン王国の公女かもしれない。けれどはっきりと言えるのは、決して下級貴族である子爵令嬢のリリアンではないということだ。
いわゆる身分差というものがある以上、ギルバートがリリアンと結婚することはない。決して妻にはしない女の身体を弄ぶことは、戯れ以外のいったい何だというのか。
口から出まかせを言うほど彼は軽薄になってしまったのかと思うと、リリアンの胸にまたひとつ悲しみが落ちた。
「……とにかく、私はああいうことはしたくないの。ギルが考えを改めないなら、私はここを出ていくし二度とあなたと顔を合わせないわ」
しっかりと自分の意志を伝えると、ギルバートは明らかにしょんぼりとして「……分かった」と小さく答えた。しかし。
「もう服を脱がせたり胸をさわったりはしない。でも、キスぐらいはいいよね?」
めげない彼の言葉に、リリアンはますます眉根に皺を刻む。
「キスも駄目!」
「えー……じゃあ、舌を絡めなければいい? チュッて、バードキスなら」
「だーめ! キスも身体のどこかをなめたりするのも禁止!」
「そんなあ。……じゃあ抱きしめるのは? それぐらいはいいよね、子供の頃からしてたんだし」
埒の開かない交渉は続き、結局ふたりの落としどころは『軽い抱擁と手つなぎまでは可』となった。そしてすべての話し合いが済んだあと、リリアンは話に夢中で自分がずっと下着姿だったことをようやく思い出し、真っ赤になりながらギルバートを部屋から追い出したのであった。