王宮メロ甘戯曲 国王陛下は独占欲の塊です
今まで同年代の子がほとんどいない環境で育ったリリアンにとって、ギルバートの存在は新鮮だった。読んだ童話の話を一緒になって夢中でしてくれる、庭で全力の鬼ごっこをしてくれる、お人形ごっこを飽きずに何時間でもしてくれる。リリアンが草笛の吹き方を教えてあげるとギルバートは目をキラキラさせて感心してくれたし、レンゲで花輪を作ったら「すごい!」を何回も繰り返し手を叩いて褒めてくれた。
リリアンはいつの間にかギルバートが可愛くてたまらなくなった。もし弟がいたらこんな感じだったのだろうか。
日の光を浴びてキラキラ輝く柔らかな金髪。快晴の空のように青い瞳。無垢であどけない笑顔。身体は細身で少し頼りないけれど、それが却ってリリアンの庇護欲を掻きたてた。
「今日はギルにウサギの捕まえ方を教えてあげるわ。山へ行くからついてらっしゃい」
「うん! リリーは本当にすごいなあ、なんでも知っててなんでも出来ちゃうなんて」
ふたりの関係は令嬢と従僕というよりは姉と弟、或いは本当に仲の良い友達のようだった。そんなふたりの姿を見て、祖父のジェフリーもギルバートと共に現れたロニーも幸福そうに目を細める。
「——話に聞いていたよりお元気そうじゃないか、殿下は」
「リリアン様のおかげです。長年おそばに仕えておりますが、殿下のあのようにくつろいだお姿は初めて見ました」
居間の窓から、山へ向かって駆けていく小さなふたりの姿を眺めて、ジェフリーとロニーはそう語る。
「いっそ、このままここで暮らしても良いのではないか? 権力ばかりが幸福ではない。何もなくとも、温かい食事と大切な人がいるだけでも、幸福は充分得られるものだ」
しみじみとした声で語ったジェフリーの言葉に、返事は返ってこなかった。振り向くと、ロニーは複雑な感情を押し殺すように唇を噛みしめている。
ジェフリーはそれを見て小さく首を横に振った。
「余計なことを言ったな、ミレーヌ様のお心に背くものだった。忘れてくれ。年をとるとどうも言動が保守的になる」
居間にはしばらく沈黙が落ちた。窓の外では大人たちの思惑を知らないリリアンとギルバートが楽しそうにはしゃいでいる。
ジェフリーとロニーは目を眇め、それを切なそうに見つめた。