王宮メロ甘戯曲 国王陛下は独占欲の塊です
頭に浮かんだのは、今朝ギルバートが口にした『戯れでもない』という台詞だ。あり得ないと思い、あのときは一笑に付したが、またこんな話題が出るだなんて。
「馬鹿なこと言わないで。私は田舎の子爵令嬢よ。そりゃお爺様は元宮廷官でギルの信頼も厚いけど……でも、身分は身分だわ。教会は王家の貴賤結婚を禁止しているって知ってるでしょう。下級貴族の私が王家に嫁ぐことはあり得ないわ」
説明するまでもなく当たり前のことだと思うのに、なぜそんな噂がたつのか不思議だった。
リリアンがきっぱりと言い切ると、ファニーは「ただの噂ですから」と気まずそうに眉尻を下げて笑い、そうしてこの話題は終わった。
けれど、ギルバートが自分を特別に信頼しているのは本当かも知れないと、待ち合わせの馬房前まで行ったリリアンは思った。
普通、国王が遠乗りにいくともなれば、護衛やら侍従やら秘書官やらと付き添いやらが何十人とゾロゾロついてくるのが当たり前だ。
ところが馬房の前で二頭の馬の手綱を握って立っているのは、なんとギルバートだけだった。護衛も侍従も、側近のロニーさえつれていない。
「まさか、ふたりきりで行くの?」
「もちろん。デートのつもりだから」
当然のように言ってのけるギルバートの腰には、鞘に宝玉のついた剣が装備されている。どうやら本気で護衛をつけずに行くつもりだ。
「それって……いくらなんでもまずいんじゃない? 国王が護衛もつけないなんて」
「うん、だから早く行こう。誰かに見つかって止められる前に」
しかも彼は宮廷官らにお忍びで行くつもりらしい。そんなことをして、もしものことがあったらどうするつもりなのだろうか。
リリアンは渋い表情を浮かべたが、ギルバートはまるで遊びに誘う子供のように「ほら、早く早く」とせかして、彼女の手を引きさっさと馬の背に乗せた。