王宮メロ甘戯曲 国王陛下は独占欲の塊です
金の髪と外套をなびかせて馬を駆るギルバートの姿は、思わず見惚れるほど凛々しいものだった。神話に出てくる騎士のようで、目が奪われてしまう。
そうして王宮の裏門から水路を超え丘を下り、河沿いにしばらく馬を走らせていると突然林に覆われていた道が開け、驚くような景色が目に飛び込んできた。
「……すごーい……」
風景のあまりの眩さに、リリアンはそれだけ呟くと言葉を失ってしまう。
そこは見渡す限り一面に黄色いキンポウゲが咲き乱れる花畑だった。
どこまでもどこまでも続く鮮黄色。あるのは細い小道と、花畑の中央に風を受けて佇む煉瓦造りの風車小屋だけだ。
「どう? すごいだろう?」
風車の手前で馬を停めたギルバートが、リリアンを振り返って言う。その顔は、秘密の宝物を見せる子供のように得意げで嬉しそうだ。
「うん、すごい……。王宮の近くにこんな綺麗な場所があったのね」
ギルバートの隣に馬を並べ、リリアンは辺りをぐるりと見回してうっとりと答えた。モーガン邸のある田舎も草花は豊かだが、ここまで広大で鮮やかなものは見たことがない。
「林の小道を抜けなくちゃいけないからね、滅多に人が来ない場所なんだ。最初は風車小屋の番人が少し植えただけだったキンポウゲが、自生してこんなに広がったらしい。隠れた絶景場所って感じかな」
「へー、ギルはよく知ってたわね。誰かに教えてもらったの?」
たわいなくした質問に、答えはすぐに返ってこなかった。どうしたのだろうと思ってリリアンが隣のギルバートを振り返ると、彼は鮮黄色に輝く花畑をまっすぐ見つめたまま、やがて口を開いた。
「ずっと、離宮から見てた。王宮からだとちょうど塔の影になって見えないけど、僕の生まれ育った離宮からは遠目にここが見えたんだ。栄えた町を外れ、どこまでも続く暗い森のその奥に、金色に輝く場所があるって。ずーっと、窓から見てた」
真剣みを帯びた声で紡がれたその話に、リリアンの胸がぎゅっと締めつけられた。