王宮メロ甘戯曲 国王陛下は独占欲の塊です

部屋は静まり返っていて、何も変わった様子はない。気のせいかと思ったけれど、息を潜めていると、やはり気配を感じた。

足音を忍ばせ扉に近づいてみる。扉にそっと耳を当ててみると、どうやら誰かが廊下を通ったような足音が聞こえた。

(こんな時間に……誰?)

一瞬恐怖を抱いたが、すぐに考え直した。

リリアンの部屋の隣はギルバートの寝室だ。彼の部屋の前には衛兵が立っている。他にも王家の居住区であるこの最上階には、階段前などに衛兵が夜通し立っているはずだ。不審者が侵入してくる可能性は少ないだろう。

ということは、この階を自由に行き来出来る者——ギルバートやドーラ夫人らのイーグルトン家・或いは親類の者、特別に部屋を用意されているリリアンとジェフリー、或いは侍従長など王の側仕えが許されている者らの誰かしかいない。

こんな夜中に歩き回っているのは変だが、眠れなくて散歩でもしているのだろう。リリアンがそう考えていると、足音はどうやら奥の回廊へ向かっていることが分かった。

回廊は例の王家の肖像画が並んでいるところだ。夜中に行くような場所でもないと思うが、リリアンには分からない事情が何かあるのかもしれない。

(別に、私が気にすることじゃないわね)

不審者ではないのなら、とりたてて心配することもない。リリアンはホッと胸を撫で下ろし、踵を返してベッドへと戻った。

ベッドに潜り瞼を閉じると、ふたたび静寂がやって来る。

夜の帳に包まれた王宮の静寂。
その静けさの中にさまざまな想いが満ちていることを、初めての恋に胸ときめかせているリリアンは、まだ気づいていない。

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