王宮メロ甘戯曲 国王陛下は独占欲の塊です

「……僕には国に利益をもたらすより、リリーと食事出来る方が何百倍も素晴らしいと思うよ」

それは、ギルバートが彼女を誰よりも愛しているという宣言に他ならない。嬉しくて照れてしまうけれど、少し不安にもなってしまう。昨日のおしのびで出掛けたことといい、彼はリリアンに夢中になるあまり自分の立場を見失いかけていないかと。

ギルバートが王位についたのは、まだひと月前のことだ。王位継承の争奪戦には勝ったものの、大切なのは当然これからである。公務に従事し国益を上げ国民に幸をもたらさなければ、王宮内だけでなく庶民にまで敵を作ってしまう。

ましてや即位後すぐは国民の期待も高く見る目も厳しい。もっとも身を引きしめないといけない時期であろう。

彼の将来を危ぶんだリリアンは、少しだけ考えてひとつの提案をした。

「分かったわ。じゃあ、夜寝る前に一緒に温かいミルクを飲みましょう。ギルが晩餐会を頑張って来たら、特別に蜂蜜をたっぷり入れてあげる」

その言葉を聞いて、ギルバートがきょとんと眼を見開いた。

ギルバートは甘いミルクが大好物だ。ふたりが共に住んでいた頃、彼がリリアンの靴をピカピカに磨いたり、上手に髪を編みこんでくれたときなど、ご褒美に甘いホットミルクを淹れてあげたことがあった。

特に、夜寝る前にふたりで一緒に甘いミルクを飲むのがギルバートは大好きだった。

『ミルクに蜂蜜を入れると、眠りの妖精がやってきて楽しい夢を見る魔法をかけてくれるのよ』

リリアンが童話で読んだ知識を披露すると、幼いギルバートは感動で目をキラキラと輝かせて言った。

『じゃあ今夜は一緒に寝ようよ。そうしたら一緒に同じ夢が見られるかも知れないよ』

そうして心地よい甘さと温かさに包まれながら身を寄せ合って寝たことは、今でも顔が綻ぶほどのいい思い出だ。

そんな懐かしい話を持ち出されて、ギルバートはしばらく瞬きを繰り返したあと満面の笑みを浮かべる。
< 82 / 167 >

この作品をシェア

pagetop