王宮メロ甘戯曲 国王陛下は独占欲の塊です
「厳しい? ギルが?」
あの子犬のような甘えん坊が、異国の大臣との会談でそんなに威圧的な態度を取るとは到底思えなかった。けれどファニーはこっくりと頷くと声を潜めて続けた。
「ギルバート陛下は王太子時代から非常に強気な会談をされることで、今まで外交を有利に進められてきました。けど、あまり強硬すぎる姿勢を貫くことに、異を唱える臣下らも出始めていると噂で聞きます」
初めて知るギルバートの一面に、リリアンは驚くと共に嫌な胸騒ぎを覚える。
彼のことは懇意な幼なじみである自分が誰より理解していると思っていた。でも、違う。大人になったギルバートには、リリアンの知らない顔があるような気がしてならない。
そして、リリアンはそれを知りたいと思った。いや、知らなくてはいけない。もし彼が国王として間違ったやり方をしているのなら、それを諌めなければ。そんな想いが芽生えてくる。
臣下でもない子爵令嬢が国政に口を出すなど、さしでがましいのは十分承知だ。けれど、ファニーの噂やギルバートの態度を見ていると、彼は素直に臣下の意見に耳を傾けていない気がする。だったら、さしでがましくとも彼を叱って窘めることが出来るのはきっと自分だけだろう。
ドーラ夫人が言っていた意味が、少し分かった気がする。子爵令嬢が国王に異を唱える権利はないが、幼なじみのリリアンとしてなら彼の間違いを正してあげることは出来るのだから。
「……ねえ、ファニー。舞踏会って、あとで少しだけ覗いちゃ駄目かしら?」
そのためにも、リリアンは自分の目で本当のギルバートが見たいと思った。リリアンの前では出さない、国王としての彼の姿を。
リリアンの企みにファニーは一瞬目を丸くしたが、とくに追及はしなかった。コクリと頷くと「舞踏用のドレスにお着替えになった方がよろしいですよ。その方が目立ちませんから」とすぐに支度を初めてくれた。