王宮メロ甘戯曲 国王陛下は独占欲の塊です
オアーブル宮殿の大舞踏室を解放されて行われた舞踏会は、実に華やかなものだった。ステルデンと貿易交流、或いは戦線協定を結んでいる国の各要人が招かれ、賑わいの中にもどこか緊張感が漂うことも否めない。
舞踏会場をうろついても目立たないように、ファニーにドレスアップしてもらったリリアンは扇で顔を隠しつつ、人混みの中からキョロキョロとギルバートを探した。
どうやら乾杯の挨拶も済んだようで、会場は宴もたけなわだ。クリスタルシャンデリアが鏡張りの壁に反射してキラキラと輝くホールでは、着飾った紳士淑女が宮廷楽団の奏でる軽快な曲に合わせてポルカを踊っている。
(ギル、どこかしら……)
壁際を歩きながら会場を見回していると、進行方向の先にギルバートの姿を見つけた。
銀糸の刺繍で彩られた濃紺のジュストコールに絹紋織の白いベストという雅やかな衣装に身を包んだギルバートは、腕を組み窓際に立っている。その周囲には侍従長のセドリックはじめ、幾人かの臣下らがついていた。
しかし、ギルバートは明るい舞踏会場とは反対に表情が険しい。手にしているシャンパングラスをときどき傾けては、どこか冷ややかな眼差しで踊る人々を眺めている。
彼がこの舞踏会をまったく楽しんでいないことが伝わってきて、リリアンは不安になってしまう。苛立ち、疲弊、侮蔑、そんな心情が青い目にはありありと浮かんでいる。もてなす側の主催者である彼がいったいどうしてそんな表情を浮かべているのか、リリアンには不思議でたまらなかった。