王宮メロ甘戯曲 国王陛下は独占欲の塊です

すると、リズミカルなポルカの曲が終わり、続いてゆったりとした優しいワルツのメロディが流れ出した。踊っていた人たちはそれぞれパートナーを変えたり休憩に入ったりと、動きを見せる。

ワルツは男女ふたりきりで身体を寄せ合い踊るので、そのとき最も親密になりたい相手を誘うことが多い。

ギルバートのもとにも、幾人かの女性たちがやってきた。それを見てリリアンは胸がチクリと痛む。

年若くして王位についた未婚のギルバートに嫁ぎたいものは山ほどいる。未開の鉱山を持つステルデンはまだまだ成長の余地のある国だ。これから鉱業が発展していけば、ステルデンは資源大国として大いに富んでいくだろう。国内外の王侯貴族たちはステルデン王家と繋がりを作りたくて、こぞってこの舞踏会に自分らの娘を送り込んでいるはずだ。

もちろんそれだけではなく、ギルバートは稀有なほどの美丈夫だ。背は高く男らしい逞しさもありながら彫刻のような整った美麗さもある。物腰は優雅な品格を持ち、それでいて笑うと無垢な少年のように愛らしい。王妃の座という条件を抜きにしたとしても、彼と結婚したいと思う女性もいるだろう。

つまり、ギルバートにダンスを申し込もうとしている女性らは、いわば彼の花嫁候補だ。きっとリリアンとは違い上級貴族、あるいは王家の血筋の身分を持つ娘たちに違いなかった。

いくらギルバートと想い合っていたって、身分差がある以上リリアンが結ばれることはない。それを思うと、彼に堂々とダンスを申し込める彼女たちが羨ましく、妬ましく思えてしまった。

胸が苦しくなってしまってリリアンが目を逸らそうとしたときだった。

「ギルバート陛下。よろしかったら私と一曲踊って頂けませんか?」

積極的な娘が、一番最初にギルバートに声をかけた。真紅のドレスをまとった美しい娘だ。国王に向かって物おじせず声をかけたところを見ると、相当身分の高い令嬢なのかもしれない。
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