王宮メロ甘戯曲 国王陛下は独占欲の塊です

ファニーがギルバートのことを厳しいなどと言っていた意味が、リリアンにはようやく分かった気がする。

国王としてのギルバートの顔は、リリアンが想像も出来ないほど違っていた。あんな冷酷な彼の姿は見たことがない。

リリアンに甘えるときの幼馴染の顔と、冷徹な国王の顔。どちらが本当のギルバートなのだろうか。リリアンは少しだけ悩んだけれど、頭を振ってそれを払しょくした。

(どっちだってかまわない。ギルはギルよ)

そう思い直して顔を上げたリリアンは、ギルバートが気怠そうにひっそりと舞踏室から出ていったのを見て、慌ててそのあとを追い掛けた。

どうやら彼は外の空気を吸いに行ったらしい。人目に晒されることに疲れたのだろうか、人けのない廊下から静かなバルコニーへひとりきりで向かう。

リリアンは辺りに人がいないことを窺ってからすぐさま後を追い、バルコニーに繋がる掃き出し窓を開いた。

無遠慮に窓が開いたことに、振り返ったギルバートが一瞬不機嫌そうに顔をしかめた。けれど、それがリリアンだということに気づくと、目をまん丸くして驚く。

「リリー? どうしてここに? それにその恰好……?」

彼が驚くのも無理はない。部屋で留守番しているはずのリリアンがレモンイエローの舞踏用ドレスを着て、こんなところにまでやって来たのだから。

けれどギルバートはすぐに表情をへちゃっと和らげると、小走りでリリアンの元に駆けてくる。

「もしかして、僕に会いたくなって舞踏会場に忍び込んできちゃったとか? 嬉しいなあ」

ニコニコと嬉しそうな顔はまるで邪気がない。さっき他国の令嬢を貶した男と同一人物とは思えなかった。

「リリーの舞踏用のドレス姿、初めて見た。すごく綺麗だよ。でも胸を出し過ぎかな。僕だけならいいけど、他の男には見せたくない」

相変わらずのギルバートに、リリアンもうっかり笑い出しそうになってしまう。けれど。
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