王宮メロ甘戯曲 国王陛下は独占欲の塊です
「ギル」
リリアンは菫色の瞳でキッと見上げると、両手を伸ばし彼の頬をぐにっと掴んだ。
「っ!? な、なに? いひゃいよ、リリー!」
「悪い子! 女の子に意地悪を言って泣かせるなんて、私、そんな悪い男の子は嫌いよ!」
リリアンが真剣な声色でそう叱責すると、ギルバートは目をしばたたかせたあと、冷静に頬をつまんでいた手を離させた。
「……見てたんだ?」
呟くように聞いたギルバートは、苦笑とも自嘲ともとれない微かな笑みを浮かべている。無邪気とも冷酷とも違うその表情に、リリアンの胸がなんだかドキリとした。
リリアンが無言で頷くと、彼は掴んでいた手を離しフーッと溜息を吐く。そして綺麗に整えられている前髪を、クシャリと手で掻き上げた。
「あの女の父親はね、三年前僕が外交に行った際、会いもせず門前払いしたんだよ。その頃はまだシルヴィア復権派が強い勢力を持っていてね、いずれエリオットが王位につくって信じてるやつらがいっぱいいたんだ。チエール国はうちの友好国だけど、大公らの間ではシルヴィア復権派につくか、僕ギルバート新王太子につくかで別れてたみたいでね。あの女の父親はシルヴィア復権派だったってわけさ」
話しているうちに、ギルバートの声から柔らかさが消えていく。代わりに辟易とした苛立ちが感じられて、リリアンは悲しくなってしまった。
「国内外問わず、そういうやつは大勢いるよ。シルヴィアの復権を信じていたやつは、僕が王太子の座についてからも随分なあしらいをしてくれたもんさ。けど、僕がシルヴィア復権の可能性を完全に叩き潰し、王位についた瞬間、笑えるほど手のひらを返してきたんだ。さっきの令嬢だってそうさ。呆れを通り越して感心するよ、自分の父親が三年前僕にどれほどの無礼を働いたか知っていながら媚を売ってくるなんて、卑しいにもほどがあるってね」