王宮メロ甘戯曲 国王陛下は独占欲の塊です
ギルバートの表情は、いつもリリアンに見せる無邪気なものではなくなっていた。青く綺麗なはずの瞳には、憎しみや怒りすらも浮かんでいる。口角を歪めて笑う口元からは、愚かな他人と哀れな運命に翻弄された自分への嘲りさえ見て取れた。
「……ギル……」
どう返していいか分からずリリアンが小さく呼び掛ければ、ギルバートは我に返ったようにハッとしたあと、気まずそうに口元に手を当てた。
「……ごめん。リリーにこんな話、聞かせるつもりじゃなかった」
そうして彼はくるりと背を向けると足を進め、大理石で出来た欄干に手を掛けて俯いた。
「……こんなことばっかりなんだ。王太子になっても、国王になっても、周りは敵ばかりで誰も信じられない。リリーだけだ、本当の僕を好きでいてくれるのは」
夜空の下で嘆くギルバートの背中は、暗闇に溶け込んでしまいそうで不安になる。リリアンは彼に近づくと、その悲しそうな背を静かに抱きしめた。
「ごめんね、今までギルがそんなに苦しんでいたなんて全然知らなかった。ずっと、力になってあげられなくて……ごめんね」
リリアンは自分を不甲斐なく思う。離れていた七年間、ギルバートはずっと戦っていた。陰謀と謀略と欲望の渦巻く中で。きっと何度も裏切られたのかもしれない、人の持つ汚さをこれでもかと見せつけられながら生きてきたのだろう。
何も知らなかったとはいえ、その間、救いの手を差し伸べられなかった自分が許せない。純真で無垢だったギルバートを冷酷な覇権者に変えてしまった七年間が、憎くて口惜しくて仕方なかった。